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​変形性股関節症

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臼蓋形成不全

 

臼蓋形成不全とは、骨盤の一部である「臼蓋(きゅうがい)」という大腿骨(ももの骨)の受け皿が小さいか浅いために、大腿骨の骨頭(ももの骨の先端)がしっかりはまらず、少し飛び出してしまう状態です。

 

イメージとしては、カップにボールを乗せたときに、ボールが完全にはまらずに半分飛び出しているような感じです。

 

この状態だと、股関節にかかる負担が増えてしまうため、変形性股関節症という股関節の病気を引き起こしやすくなります。そのため、医師は問診や検査でこの状態をしっかり確認することが大切なんです。

 

臼蓋がどれくらい大腿骨を覆っているかを測る方法として、「CE角」という角度を使うことがあります。この角度は、大腿骨の中心から真上に引いた線と、骨盤の縁を結んだ線との間の角度で、通常30度前後が正常とされます。でも、臼蓋形成不全の場合、この角度が20度以下になることが多いです。

 

また、遺伝も影響していると言われています。例えば、家族に臼蓋形成不全や変形性股関節症の方がいると、同じ症状が出る可能性が高くなるかもしれません。

進行してしまうと、股関節の動かせる範囲が狭くなったり、痛みが増えたりして、日常生活に支障をきたすこともあります。実際、臼蓋形成不全の後遺症として、股関節の発育障害が残ることが多いようです。

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変形性股関節症

 

変形性股関節症とは、股関節のクッションの役割をする軟骨がすり減ることで、骨盤の臼蓋(きゅうがい:股関節の受け皿)と大腿骨(ももの骨)の骨頭(先端が丸くなった部分)が変形し、痛みや動かしづらさが出る病気です。また、進行すると左右の足の長さが違ってくることもあります。

 

この病気には大きく分けて二つのタイプがあります。

  1. 一次性変形性股関節症
    はっきりとした原因が分からない関節症で、加齢や体重の増加による負担が関係していると考えられています。特に欧米ではこのタイプが多いです。

  2. 二次性変形性股関節症
    発育の問題が原因となることが多く、日本では主に「先天性股関節脱臼」や「臼蓋形成不全(股関節の受け皿が小さい状態)」が原因で発症することがほとんどです。

 

病気の進行度によって、以下の4つの段階に分類されます。

  • 前期:軽い違和感があるものの、大きな症状はまだ出ていません。

  • 初期:股関節の痛みが出始め、歩くと違和感を感じることがあります。

  • 進行期:痛みが強くなり、関節の変形が進み、歩くのがつらくなることがあります。

  • 末期:関節の変形がさらに進み、股関節の動きが制限され、日常生活に大きな支障をきたします。

 

進行すると、歩くのが困難になったり、長時間の立ち仕事や階段の上り下りがつらくなったりすることがあります。早めの発見と適切なケアが大切ですね。

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変形性股関節症の進行

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痛みが発生する仕組

 

変形性股関節症の痛みは、股関節にかかる負担(メカニカルストレス)によって軟骨が壊れることで起こります。軟骨は本来、骨と骨が直接ぶつからないようにクッションの役割を果たしていますが、壊れてしまうとその機能が弱まり、痛みが出てしまいます。

 

特に臼蓋形成不全(股関節の受け皿が小さい状態)などの発育不全があると、関節が不安定になりやすくなります。すると、股関節の特定の場所に強い圧力がかかり続け、軟骨がどんどん削れてしまいます。軟骨には痛みを感じる神経が多いため、破壊が進むほど強い痛みを感じるようになります。

 

さらに、壊れた骨はダメージを補おうとして、**「骨棘(こつきょく)」**と呼ばれるトゲのような骨を作ります。しかし、この骨棘が増えることで関節の隙間が狭くなり、関節の動きが悪くなってしまいます。その結果、軟骨への負担がさらに増えて、破壊がどんどん進行してしまうのです。

 

つまり、股関節の特定の場所に過度な刺激(メカニカルストレス)をかけないようにすることが、痛みを抑え、病気の進行を防ぐためにとても重要なポイントとなります。体重管理や筋力トレーニング、適切な姿勢を保つことが大切ですね。

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変形性股関節症のリスク因子について
 

変形性股関節症を理解する上で、**「発症のリスク因子」と「悪化のリスク因子」**の2つを知っておくことが大切です。特に治療を考える際には、悪化のリスク因子に注目し、股関節の痛みや関節の狭小化を防ぐことが、進行を抑える鍵となります。

 

発症のリスク因子(病気を引き起こす原因)
 

変形性股関節症が発症しやすくなる要因には、以下のようなものがあります。

・臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)

 股関節の受け皿である臼蓋が小さく、関節が不安定になりやすく、軟骨への負担が増えます。

・先天性股関節脱臼

 生まれつき股関節が脱臼している状態で、成長とともに関節の形が変形しやすくなります。

・肥満

 体重が増えることで股関節への負担が大きくなり、軟骨がすり減りやすくなります。

・重い物を扱う作業
長年にわたって股関節に大きな負荷がかかることで、関節の摩耗が進みやすくなります。

 

悪化のリスク因子(進行を早める要因)
 

変形性股関節症が進行しやすくなる要因として、以下のものがあります。

・年齢
 加齢により関節の軟骨がすり減りやすくなります。

・股関節の痛み
 痛みが続くと関節の動きが制限され、動かさないことでさらに関節の状態が悪化する悪循環が生じます。

・関節の狭小化
 軟骨がすり減ることで関節の隙間が狭くなり、動きが悪くなります。

・骨棘(こつきょく)や骨硬化
 壊れた骨が補強されようとして、トゲのような骨棘ができ、関節の動きがさらに悪くなります。

・大腿骨の外旋変異
 股関節の位置がズレることで、さらに負担がかかり、痛みや可動域の制限が生じます。

 

治療・介入の目的
 

変形性股関節症の治療では、壊れた関節を完全に治すのではなく、股関節への負担(メカニカルストレス)を減らし、痛みを和らげることが最も重要です。

そのため、次のような工夫を行います。

・股関節だけでなく、体幹や骨盤などの周囲の環境を整え、股関節の負担を軽減する。
・股関節や脊柱、骨盤の可動域を改善し、正しい位置で動かせるようにする。
・硬くなった筋肉をほぐし、普段使えていない筋肉を働かせることで、関節への負担を分散。

 

痛みの広がりと注意点
 

股関節の痛みは、股関節周辺だけでなく、お尻(臀部)、太もも(大腿部)、ふくらはぎ(下腿)に広がることもあります。そのため、坐骨神経痛と間違われることがあります。

まとめ
変形性股関節症の進行を防ぐためには、関節の負担を減らし、痛みをコントロールすることが最も大切です。股関節だけでなく、体全体のバランスを整えながら適切なケアを行うことが、症状の悪化を防ぐポイントになります。

異常筋活動とは?

 

変形性股関節症の方は、股関節が不安定な状態にあるため、筋肉を過剰に収縮させて関節を安定させようとすることがあります。本来はリラックスしているはずの筋肉が、常に頑張りすぎてしまうのです。

ある研究によると、変形性股関節症の患者さんは、健康な人に比べて**大殿筋(お尻の筋肉)・中殿筋(お尻の横の筋肉)・大腿筋膜張筋(太ももの外側の筋肉)**の緊張が高く、筋肉を緩める能力が低下していると報告されています。

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筋肉のバランスが大切

緊張している筋肉を無理に緩めすぎると、股関節の不安定さが増してしまい、かえって関節を痛める原因になってしまいます。そのため、治療では次のことが大切になります。

✅ 硬くなった筋肉は適度に柔軟にする
✅ サボってしまっている筋肉(インナーマッスルや臀筋の下部)を鍛える

こうした運動療法を行うことで、股関節の不安定さが解消され、頑張りすぎている筋肉の緊張がやわらぎ、痛みの軽減につながります。

 

股関節の悪循環

 

変形性股関節症が進行すると、次のような悪循環が起こります。

  1. 股関節が不安定になる

  2. 筋肉が過剰に収縮して関節を固定しようとする

  3. 関節にかかる負担(メカニカルストレス)が増える

この悪循環を断ち切るために、適切な治療や運動療法が必要です。

 

治療の目的

 

変形性股関節症の治療では、以下の3つが重要になります。

① 股関節組織の拘縮(こうしゅく)の治療
 → 硬くなった関節や筋肉をほぐし、可動域を広げる

② 股関節周りの筋肉の機能回復
 → サボっている筋肉を鍛え、股関節を安定させる

③ 体幹の筋肉の機能回復
 → 骨盤や背骨を支える筋肉を鍛えて、全身のバランスを整える

 

このように、股関節の不安定さを改善し、筋肉のバランスを整えることが、痛みの軽減と症状の進行を防ぐカギとなります。

変形性股関節症の治療について

 

治療の考え方(不安定さと硬さのバランス)

変形性股関節症の治療では、股関節の変形そのものを元に戻すことはできません。ですが、痛みを和らげたり、進行を遅らせたりすることは可能です。

股関節の痛みが悪化する主な原因は、関節の狭小化(関節の隙間が狭くなること)と、それに伴う痛みです。そのため、股関節だけでなく、骨盤や腰椎(腰の骨)の動きを良くすることで、特定の部位にかかる負担を減らし、痛みを軽減することが治療の大きな目的となります。これにより、日常生活が楽になり、病気の進行を防ぐことができます。

治療のポイント

 

痛みを取るためには、次の2つの治療が重要になります。

  1. 徒手療法(セラピストの介入)

    • 硬くなってしまった筋肉をほぐし、股関節の可動域を改善する。

    • 特に、不安定な関節を支えるために過剰に緊張している筋肉をゆるめることが大切。

  2. 運動療法(患者さん自身が動く)

    • 関節を安定させるために、適切な筋肉を鍛える。

    • 使えていない筋肉(インナーマッスルなど)を強化し、股関節にかかる負担を分散させる。

 

股関節にかかる負担について

 

歩行時、股関節には体重の3~4倍もの力がかかると言われています。股関節はこの強い負荷を支えながら、前後・左右・回旋などさまざまな動きを可能にする関節です。そのため、股関節を支える筋肉のバランスを整え、関節の負担を減らすことが、痛みを軽減し、症状の悪化を防ぐために非常に重要になります。

変形性股関節症の治療では、不安定さによる筋肉の硬さをほぐす徒手療法と、股関節を安定させるための運動療法の2つを組み合わせることが重要です。股関節だけでなく、骨盤や腰の動きも整えることで、痛みを減らし、より快適に日常生活を送れるようになります。

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股関節屈曲拘縮とは?

 

変形性股関節症の方は、股関節を少し曲げた状態(屈曲位)のほうが関節が安定しやすいため、自然と前かがみの姿勢をとることが多くなります。その結果、股関節周りの筋肉、特に**大殿筋(お尻の筋肉)・中殿筋(お尻の横の筋肉)・大腿筋膜張筋(太ももの外側の筋肉)が常に緊張しやすくなり、力を抜くことが難しくなります。この状態が続くと、股関節が曲がったまま固まり、伸ばしにくくなる「屈曲拘縮(くっきょくこうしゅく)」**が起こります。

股関節屈曲拘縮が引き起こす問題

股関節が曲がった状態になると、相対的に**骨盤が前に傾く(前傾)**ため、腰が反りやすくなり、お尻が突き出た姿勢(反り腰・出っ尻)になりやすくなります。

さらに、歩くときにも股関節が曲がったまま固定されてしまい、骨盤が前に傾いた状態が続くことで、同じ部分に負担(メカニカルストレス)がかかり続け、股関節の軟骨がすり減りやすくなります。その結果、股関節症の悪化につながります。

悪循環の流れ

  1. 股関節が曲がったまま歩く(股関節屈曲歩行)

  2. 股関節の同じ部分に強い負担がかかる(局所的なストレス増加)

  3. 軟骨がすり減り、破壊される

  4. 痛みが増す

この悪循環が続くと、股関節を伸ばすことがますます難しくなり、歩くたびに股関節に負担がかかり続けてしまいます。

治療のポイント

この悪循環を防ぐためには、歩くときにしっかり股関節を伸ばせるようにすることが大切です。具体的には、次のようなアプローチを行います。

✅ 股関節の屈曲拘縮を改善するストレッチやリハビリを行う
✅ 硬くなった筋肉をほぐし、必要な筋肉を強化する
✅ 歩行時に股関節が自然に伸びるような動きを意識する

これらを継続することで、股関節の負担を減らし、痛みの軽減につなげることができます。

変形性股関節症の方は、関節が安定しやすい股関節の曲がった姿勢を取りやすくなり、それが続くと股関節が固まって伸ばせなくなる「屈曲拘縮」が起こります。

 

この状態が続くと、歩行時の負担が増えて、軟骨の破壊や痛みが進行してしまいます。

そのため、治療では歩くときにしっかり股関節を伸ばせるようにすることが重要です。

適切なストレッチや運動療法を行い、股関節の動きを改善することで、痛みを和らげ、症状の悪化を防ぐことができます。

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股関節と体幹の関係について

変形性股関節症の治療では、股関節だけでなく体幹(お腹や背中の筋肉)の機能も重要になります。股関節は、骨盤の動きと連動することで、大きくスムーズに動くことができる関節です。

また、股関節は上半身と下半身をつなぐ役割を持つため、歩行時には骨盤と体幹(胴体)の動きをしっかりと安定させることが大切になります。

歩行時の股関節と体幹の働き

 

歩くとき、股関節と体幹の筋肉はバランスよく働いています。

  1. 右足で体を支えるとき
     → **右のお尻の筋肉(大殿筋・中殿筋)と右のお腹の筋肉(内腹斜筋)**が働く

  2. 左足が地面から離れるとき
     → **左側の背中の筋肉(多裂筋・胸腰部の最長筋・腸肋筋)と左のお腹の筋肉(外腹斜筋)**が働く

これらの筋肉がバランスよく働くことで、骨盤や体幹をまっすぐに保ち、スムーズに歩くことができます。

 

体幹が弱るとどうなる?

 

体幹の筋肉がうまく働かないと、股関節にかかる負担が増えてしまい、歩くときのバランスが崩れやすくなります。その結果、股関節の周囲の筋肉が異常に緊張し、症状の進行を助長してしまうのです。

治療のポイント

変形性股関節症の治療では、股関節のケアだけでなく、体幹の筋肉をしっかり鍛えることが必須となります。

✅ 股関節と体幹を連動させるエクササイズを取り入れる
✅ 歩行時に体幹がブレないように意識する
✅ 股関節に過度な負担をかけない姿勢を身につける

これにより、股関節の安定性が増し、痛みを軽減することができます。

股関節は、上半身と下半身をつなぐ大切な役割を持っています。

歩行時には、股関節だけでなく、体幹の筋肉もしっかり働くことで、骨盤を安定させ、スムーズに動くことができます。

 

体幹の筋肉が弱ると股関節への負担が増え、症状が悪化しやすくなるため、治療では股関節だけでなく体幹機能の改善も欠かせません。

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股関節治療の考え方 まとめ

 

変形性股関節症とは?

 

変形性股関節症は、臼蓋形成不全などによって股関節が正常に体重を支えることができなくなることで起こります。

 

治療の目的

 

我々徒手療法家の目的は、変形した股関節を正常に戻すことではなく、悪化させずに痛みを改善することです。

 

治療のポイント

 

治療のポイントは、股関節の不安定性を補うために働きすぎている筋肉へのアプローチと、股関節をバランスよく支えられるようにする運動療法が重要です。

変形性股関節症の治療目的

変形性股関節症の治療では、主に以下の3つの目的で介入します。

  1. 股関節組織の拘縮治療:

    • 股関節不安定性の代償で硬くなってしまった筋肉を緩めることで、股関節の負担を軽減します。

  2. 股関節筋の機能回復:

    • 変形性股関節症では一部の筋肉にのみ負担がかかりやすい傾向があるため、バランスよく機能するように促します。

  3. 体幹機能の回復:

    • 歩行時の代償動作が起こり、体幹機能が低下していることが多いです。股関節への負担軽減のためにも、体幹筋の機能回復は非常に重要です。

注意点

  • 代償動作によって硬くなってしまった筋肉が原因で痛みが出ている場合も非常に多いため、まずは代償筋をしっかり緩めます。

  • 一部の筋肉のみで働くのではなく、股関節周囲の筋肉がバランスよく機能できるように運動療法を実践します。

  • 体幹筋が弱化していると骨盤前傾が生じやすく、治療してもすぐに姿勢や痛みが戻るため、根本改善のためにも体幹筋の機能回復を行います。

このように、股関節治療ではバランスの取れた筋肉の機能回復と体幹筋の強化が重要です。適切な治療と運動療法を行うことで、痛みを軽減し、股関節の健康を維持することができます。

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