当院における臨床哲学
ニューロ・ファシア統合的徒手介入モデル
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■ 要旨
徒手療法は従来、骨格の矯正や筋・関節の偏位調整を中心に考えられてきました。
しかし近年の慢性疼痛研究では、痛みは組織損傷そのものではなく、
神経系・心理社会的要因・ファシア(膜)の力学バランスの相互作用によって生じる出力であると理解されつつあります。
当院では、強い矯正や持続圧よりも 短時間で繊細な入力(Soft Neural Input) を重視し、
神経調整・自律神経リセット・ファシア張力の再分布を誘発することを目的としています。
本稿では、当院の手技を
**治療そのものではなく「現象変化のトリガー」**と位置づけ、
疼痛改善に関わる神経学的プロセスを整理します。
1. 緒言
慢性疼痛は画像異常と一致しないケースが多く、
背景には 中枢性感作・自律神経の乱れ・予測誤差
の増幅が関与すると考えられます。
当院の臨床モデルは次の3つの軸を統合しています。
🟢 Biopsychosocial(生物・心理・社会の視点)
・感情・生活習慣・思考の癖・ストレスを含めて痛みを理解する
・身体だけでなく「その人の背景ごと診る」考え方
🟢 Fascial Continuum(ファシアの連続性)
・全身をひとつの膜ネットワークとして捉える
・局所の硬さは全身に影響し、テンションは再分布する
🟢 Neurophysiology(神経生理学)
・痛みは脳が出力する信号であり知覚・予測の影響を受ける
・手技入力により痛覚閾値や自律神経が再設定される可能性がある
2. 臨床モデル
① Biopsychosocialによる疼痛生成
疼痛は刺激そのものではなく、
脳が統合して作り出したアウトプットです。
感情・記憶・注意・文脈により強くなったり弱くなったりします。
② Fascial Continuumと張力再構築
筋膜・内臓膜・神経周膜は一枚の布のように全身へ連続しています。
局所の負荷は全体に分散し、別部位の痛みとして現れることもあります。
当院では、長く押すよりも
短く・繊細で・必要最小限の刺激を入れることで
受容器の反応を引き出し、張力再構築(Rebalancing)を促します。
③Neuro-Autonomic Reset
痛みの持続は損傷ではなく
**神経感受性の変化(Gain Shift)**によることがあります。
適切な入力は迷走神経・HRV・予測処理に作用し、
痛覚閾値の再設定を起こす可能性があります。
3. 方法と適用
当院の施術は、刺激の時間や圧を固定せず、
身体が変化し始める瞬間を観察することを大切にしています。
観察・評価のポイント
🔸 自律神経の反応
呼吸の深さ / HRVの変化 / 緊張の低下
🔸 組織の変化
滑走性 / 温度 / 抵抗感の変化
🔸 動作の出力
可動域 / 痛みの閾値 / 身体の軽さ・動きの滑らかさ
4. 考察
4.1 Manual Therapy = Phase Shift(相転移モデル)
徒手介入は組織を「治す」のではなく、
**生体の状態が切り替わるきっかけ(相転移)**
と考えます。
入力 → ゆらぎ → 再組織化 → 新たな安定点
という変化が起こると捉えています。
4.2 Function > Structure(構造より機能へ)
構造異常があっても痛みがない人もいれば、
画像が正常でも強い痛みのある人もいます。
そのため当院は、**構造の正しさよりも「機能が戻ること」**を目的とします。
5. 臨床データと検証結果
当院が採用している手技のひとるであるGP法は理論だけではなく、
医師監修の科学的検証試験によって客観的に裏付けられています。
📌 ROM(首・肩・前屈) → 全て有意改善
📌 筋緊張指数 → 肩・腰・下肢で低下
📌 HRV → 副交感優位に変化
📌 血流速度 → ミクロ循環レベルで改善
📌 体感評価 → 軽さ・呼吸のしやすさ・痛みが改善
→ これは 神経−運動−ファシアが再統合された証拠と考えています。
(※詳細データ・グラフ・PDFで閲覧できます)

6. 徒手は再統合を起こすスイッチである
当院の徒手介入は矯正ではなく、
神経システムが再統合するためのトリガーです。
短く優しい入力であっても、生体は相転移を起こし、
膜張力・疼痛閾値・自律神経バランスが再調整されます。そしてこれは理論ではなく、
測定によって確認できている臨床モデルです。
7. 臨床のリアリティと限界について
徒手療法は万能ではありません。
構造の変化には時間を要し、心理的文脈は複雑で、
神経系の状態は日々変動し続けます。
だからこそ私たちは
「治す」ではなく「変化が起こる条件を整える」
ことに専念します。
圧を足すのでも、矯正で押し切るのでもなく、
生体が自発的に均衡を取り戻そうとするわずかな兆候を拾い上げ、
そのプロセスに寄り添う――
これこそが当院の臨床哲学の中心です。
8. 変化が起こる瞬間を観るということ
生体は、外力によって変えられるのではなく、
条件が揃った瞬間に相転移的に変わることがあります。
それはごく短い呼吸の変化であったり、
温度の移ろい、組織の滑走の変化、
あるいは患者の表情や眼球運動のごく微細な緩み。
わたしたちはその「変化の発火点」を観察し、
必要最小限の刺激でスイッチを入れることを目指します。
強い力ではなく、適切なタイミング。
技術ではなく、理解と観察。
それが統合的徒手介入の本質です。
9. 統合モデルの未来展望
統合モデルの未来展望
今後の臨床では、
関節可動域(ROM)、自律神経反応(HRV)、血流変化などの客観的な状態変化の可視化に加え、
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情動と疼痛の関係性
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呼吸パターンと迷走神経の応答
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ファシア連続体の張力が再編されていくプロセス
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姿勢制御と身体の感覚予測(Predictive Coding)
といった神経科学的理解を背景に、
より実用的で再現性の高い臨床モデルが形成されていくと考えられています。
当院では、
「測定できる変化」と「追跡できる身体状態」に目を向けながら、
身体が本来備えている調和の工程を丁寧に支える徒手アプローチの研鑽を続けています。
結語
痛みは壊れた結果ではなく、今の状態を示す出力です。
それは構造であり、生理であり、神経であり、社会であり、記憶です。
徒手介入はその出力を書き換える
小さなきっかけにすぎません。
私たちは治すのではなく、
変わる力を引き出し、整い直すための余白をつくる。
それが円命堂の臨床哲学です。
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