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なぜ人は歯を食いしばるのか?

8月16日
読了時間: 9分

身体を守る防御反応から考える


朝起きると、顎が疲れている。

こめかみが張っている。

首から後頭部まで重い。

歯科で「食いしばっていますね」と言われ、マウスピースを作った。

それでも、食いしばりそのものはなくならない。

では、なぜ人は歯を食いしばるのか。

食いしばりを「悪い癖」と考えるだけでは、この問いには答えられない。

身体には、一見すると必要のないことを繰り返しているように見えて、実は何らかの理由でその反応を残していることがある。

円命堂では食いしばりを見るとき、

「どうすれば顎を緩められるか」より先に、

「なぜこの身体は顎を固めなければならないのか」を考える。

ここが出発点である。



朝起きたときに顎やこめかみの重さを感じる女性|食いしばりと身体の防御反応


食いしばりは、ただの「顎の癖」なのか


ブラキシズムとは、歯を食いしばる、擦り合わせる、歯ぎしりをするといった顎の活動を指す。

起きている間に起こる覚醒時ブラキシズムと、眠っている間に起こる睡眠時ブラキシズムがある。

強く続けば、歯の摩耗、顎の筋肉の疲労、顎関節周囲の不快感、頭痛などにつながることがある。

米国国立歯科・頭蓋顔面研究所(NIDCR)では、ブラキシズムに関係する要因として、ストレスや不安などの心理社会的要因、遺伝、カフェイン・アルコール・喫煙などの嗜好品、一部の薬剤などを挙げている。

つまり、

食いしばり=噛み合わせだけの問題

とは限らない。

そして、ここからが重要である。


人は力を出すとき、身体を固める


重い荷物を持ち上げる瞬間。

転びそうになった瞬間。

痛みに耐える瞬間。

強い緊張の中で仕事をしているとき。

人は無意識に息を止め、腹部を固め、肩を上げ、顎に力を入れることがある。

これは身体にとって、必ずしも異常な反応ではない。

身体を安定させ、外から加わる負荷に備えるという意味では合理的な反応でもある。

問題は、

守る必要がなくなったあとも、身体が守り続けていること

である。

食いしばりから首・胸郭・体幹へ広がる身体の防御的な緊張



本当の問題は「食いしばること」ではない

食いしばっている人に、

「力を抜いてください」

「歯を離してください」

と言うことは簡単である。

意識している間なら、それで歯を離すこともできる。

しかし、仕事に集中するとまた噛んでいる。

車を運転すると噛んでいる。

眠れば、本人の意思とは関係なく食いしばっている。

ならば問題は、

「食いしばっていること」ではなく、「食いしばる反応を身体が必要としていること」

ではないだろうか。

食いしばりだけを止めようとしても、その背景が残っていれば、身体はまた緊張を作ろうとする可能性がある。

円命堂では、この視点を非常に重要にしている。

身体が「固める」ことで負荷に対応するという考え方については、こちらの記事でも詳しく扱っている。


顎を固めれば、顎だけでは終わらない


強く歯を噛み合わせれば、咬筋や側頭筋だけが働くわけではない。

頭部を支える後頭部や頸部にも緊張が加わる。

さらに身体全体を固めようとすれば、肩、胸郭、呼吸、体幹にも変化が起こる。

睡眠時ブラキシズムについては、顎の運動に関連して脳や自律神経系の覚醒反応がみられることが、これまでの研究をまとめたレビューでも報告されている。

つまり、少なくとも睡眠中の食いしばりは、単なる「歯だけの現象」として説明できるほど単純ではない。

参考:Carra MC, Huynh N, Lavigne G. Sleep bruxism: a comprehensive overview for the dental clinician interested in sleep medicine.

食いしばりと呼吸、横隔膜との関係については、こちらの記事でも扱っている。


顎関節・側頭部から後頭部、首、胸郭、横隔膜までの身体のつながり


顎と肩は別々に存在していない


食いしばりがある人では、顎だけでなく肩や首の緊張を同時に訴えることも少なくない。

もちろん、顎が悪いから肩が悪くなる、肩が悪いから顎が悪くなる、と単純に一方向の因果関係で説明できるものではない。

しかし身体は、顎、頸部、肩甲帯、胸郭を別々に使っているわけではない。

頭部を安定させようとすれば、頸部や肩甲帯もその影響を受ける。

逆に、胸郭や肩甲帯の動きが制限されていれば、頭頸部が別の場所でその動きを補うこともある。

だから円命堂では、

「顎が硬いから顎を緩める」という一方向の見方だけでは終わらない。

関連:肩こりと顎関節・食いしばりhttps://www.enmeidoukurashiki.com/post/katakori-gakukansetsu-kuishibari


ストレスを感じていない人ほど、分かりにくいことがある


食いしばりとストレスとの関連は以前から研究されている。

特に覚醒時ブラキシズムでは、心理社会的要因やストレスとの関連が報告されている。

ただし、ブラキシズムは多因子的であり、すべてをストレスだけで説明できるわけではない。


ここで興味深いことがある。

食いしばりが強い人に、「最近ストレスがありますか」と聞いても、

「特にありません」

と答えることは珍しくない。


本人が嘘をついているわけではない。

本当に、自分ではそれほどストレスを感じていないのである。

仕事にも慣れている。

家族のこともいつものことである。

多少忙しくても、それが普通になっている。

責任を背負うことにも慣れている。

しかし、


意識が「大丈夫」と判断していることと、

身体が完全に警戒を解いていることは同じではない。


身体は言葉では答えない。

眠っている間の食いしばり。

浅い呼吸。

抜けない肩の力。

朝から硬い顎。

何度緩めても戻る首。

そうした反応として現れることがある。


本人には自覚しにくい慢性的な緊張と無意識の食いしばり


「ストレス」という言葉だけでは足りない


ストレスというと、

嫌なことがあった。

仕事がつらい。

人間関係で悩んでいる。

という分かりやすい出来事を想像しやすい。

しかし、人が緊張する理由はそれだけではない。

長期間続いている責任。

常に周囲に気を配る生活。

痛みそのものへの警戒。

眠りの浅さ。

呼吸のしにくさ。

身体的な負荷。

本人にとって「当たり前」になってしまった生活環境。

こうしたものも、身体にとっては負荷となり得る。

だから、

「ストレスをなくせば食いしばりが治る」

という単純な話でもない。

見るべきなのは、

その人の身体が、なぜ今も警戒を解けないのか

ということである。

この「本人が自覚しているストレス」と「身体に残っている警戒反応」の違いは、シリーズ後半でさらに掘り下げる。

自律神経と身体の緊張については、こちらの記事でも扱っている。


右で食いしばるのか、左で食いしばるのか


もう一つ、当院で確認するのが左右差である。

右の咬筋だけが極端に硬い人。

左の側頭部だけ張っている人。

片側の顎だけ動きにくい人。

頸部の回旋や胸郭にも明らかな左右差がある人。

こうした身体を、

「食いしばりだから顎を緩めましょう」

だけで終わらせることはできない。

なぜ右なのか。

なぜ左なのか。

そして、

硬い側が本当に原因側なのか。

当院では、この左右差にも臨床上の意味がある可能性を考えて評価している。

ただし、

「右なら心理的ストレス、左なら身体的負荷」と医学的に一律に分類できる段階にはない。

左右差については、現時点では臨床的な仮説として慎重に扱う必要がある。

だからこそ、一人ひとりの身体全体を見ながら、

その左右差が何を補っているのかを考える。

この問題は次回、さらに詳しく扱う。


マウスピースには大切な役割がある


ここは誤解してほしくない。

歯科で作るマウスピースには、歯や補綴物を強い力から守るという重要な役割がある。

食いしばりによって歯が摩耗している人、歯や顎に強い負担が加わっている人は、まず歯科での評価が重要である。

NIDCRでも、ブラキシズムによる歯や顎への影響について歯科医への相談を勧めている。

しかし、

歯を守ることと、なぜその人が食いしばっているのかを考えることは別の話である。

両者は対立するものではない。

必要な歯科的管理を行いながら、身体側では別の角度からその背景を考えればよい。


円命堂が見ているのは「顎」だけではない


円命堂では食いしばりがある場合、

顎関節だけではなく、

側頭部。

後頭部。

頭蓋底。

頸部。

第一肋骨。

胸郭。

横隔膜。

呼吸。

身体全体の緊張。

睡眠や日常生活での身体の使い方。

こうした要素をつなげて評価する。

当院の目的は、

力ずくで顎を緩めることではない。

身体が顎を固めなくてもよい状態へ近づけていくことである。


食いしばりを「敵」にしない


食いしばりによって身体に問題が起きていると、

「この食いしばりさえなくなれば」と思ってしまう。

しかし、少し見方を変えてみる。

もしかすると、その食いしばりは長い間、

あなたの身体を守ろうとして続けてきた反応

なのかもしれない。

だから、ただ消そうとするのではない。

なぜ必要だったのか。

なぜ今も続いているのか。

身体は何を守ろうとしているのか。

そこを見る。

食いしばりをなくすために必要なのは、

「食いしばるな」と身体に命令することではない。

食いしばりをなくすのではない。

食いしばらなくても大丈夫だと身体が判断できる条件を取り戻す。

これが円命堂で考える食いしばりへの基本的な向き合い方である。

次回|なぜ右で食いしばる人と、左で食いしばる人がいるのか

同じ食いしばりでも、身体の左右差は一人ひとり違う。

右の顎が硬い。

左の側頭部が張る。

顎の左右差とともに、首、肩、胸郭まで偏っている。

次回は、

「なぜ右なのか。なぜ左なのか。」

という問題を、身体の左右差と代償という観点から考える。

医療機関・歯科への相談を優先した方がよいケース

歯が欠けた、強く擦り減っている、歯の痛みがある、口が開きにくい、

顎関節に強い痛みがある場合は、

整体より先に歯科・口腔外科での評価を勧める。


また、突然発症した激しい頭痛。

手足の麻痺や動かしにくさ。

ろれつが回らない。

意識状態の変化。

こうした症状を伴う場合は、食いしばりによるものと自己判断せず、

速やかに医療機関を受診してほしい。

整体は医療機関で行う診断・治療の代替ではない。


当院の関連記事

呼吸と胸郭・肩の関係について

頭痛についての考え方はこちら

円命堂について

総合整体院 円命堂 倉敷店では、痛みのある場所だけを見るのではなく、

身体全体のつながりから不調の背景を考えている。

食いしばりや顎の違和感についても、顎関節だけでなく、

頭部・頸部・胸郭・呼吸・全身の緊張や動作まで含めて評価する。


倉敷市呼松を中心に、水島・玉島・児島・真備、早島、総社、岡山市、玉野市など岡山県内各地、また県外からの来院もある。完全予約制。


総合整体院 円命堂 倉敷店Enmeidou Integrative Manual Therapy


※本記事は食いしばりや身体の緊張について一般的な情報と当院の臨床的な考え方を紹介するものであり、医学的診断を行うものではない。

歯や顎関節の異常、強い痛みなどがある場合は歯科・口腔外科等の医療機関へ相談してほしい。

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